政治分野における男女共同参画推進法案が廃案

世界の動向からはるかに遅れている日本、、、がんばるしかない!

2017年10月16日 東京朝刊より

男女均等の比率での候補擁立を目指すよう政党に努力義務を課す「政治分野における男女共同参画推進法案」が今回の衆院解散で廃案となった。「無念だ」「許せない」「あと一歩なのに」。東京都内で開かれた緊急集会では怒りや落胆の声が次々に上がった。女性の政治参加は進むだろうか。

●推進法案は廃案

衆院の女性議員比率は解散前で9・3%。列国議会同盟によると、下院の世界平均は23・6%で、日本は193カ国中165位。政党の候補者や議席の一定割合を女性に割り当てる「クオータ制」によって120カ国以上が女性の政界進出を促しているが、日本は対策を取っていない。

推進法案は超党派の議員立法としてまとめられ、通常国会に提出された。しかし、森友・加計問題を巡る与野党の駆け引きで審議入りがかなわないまま廃案に。クオータ制導入を目指す市民団体「Qの会」代表の赤松良子元文相(88)は「政争の具にされ、怒り心頭」と話し、比例代表名簿に当選可能な順位で女性を登載するよう各党に要望した。

日本では1989年の参院選、90年の衆院選で土井たか子・社会党委員長(当時)らの「マドンナブーム」が起き、女性議員が増加。その後、女性が立法や政策決定を担うケースが珍しくなくなった。一方で、「女性活躍に欠かせない『働き方改革』にジェンダー平等の観点がない」と批判するのは浅倉むつ子・早稲田大教授(労働法)だ。総務省の調査では、35~44歳の独身女性の4割が非正規雇用。連合の調査でも、20~59歳の非正規雇用の女性の平均年収は140万円で、約半数が初めて就職したときから非正規だった。しかし、雇用の男女格差の是正につながる「同一価値労働同一賃金」原則は、政府の働き方改革法案に採用されなかった。残業時間規制も過労死の労災認定基準を参考に決められ、「生活時間を確保し、ワーク・ライフ・バランスを実現する」という視点は乏しかった。浅倉教授は「長時間労働是正には、家事・育児負担が大きい女性の視点が欠かせない」と女性議員の必要性を説く。

●地方議会でも遅れ

推進法案を巡っては、自治体議員らでつくる全国フェミニスト議員連盟(フェミ議連)が政党アンケートを実施。主要政党はいずれも「最優先で制定すべきであり、選挙後早急に取り組む」と回答した。しかし、女性候補者比率は高くても24%にとどまっている。

国会議員の人材プールになりうる地方議会でも、女性の進出は遅れている。市川房枝記念会女性と政治センターの調べでは、2015年の統一地方選後で女性比率は12%。町村議会の3割以上が女性ゼロだ。圧倒的な「男社会」で、立場の弱さや嫌がらせに悩む女性議員も多い。フェミ議連は14年、東京都内の自治体議員に議会での性差別体験アンケートを実施した。回答した現・元職143人のうち、性的嫌がらせや不快な言動を経験したことがあるのが74人と半数を超えた。「重要事項が酒席で決まる」「研修先にコンパニオンが来る」「主要な役職には女性がつけない」といった体験談も寄せられた。議連事務局の小磯妙子・神奈川県茅ケ崎市議(66)は「女性が半数近くまで増えなければ議会は変わらない」と本音を漏らす。

半面、女性が4割以上を占める地方議会もある。その一つ、東京都小金井市議会は24人中10人が女性。会派の人数が少なくても一般質問や政務活動費で冷遇されることはない。無所属の片山薫議員(50)は「1人会派でも発言権が強い。議会活動や情報発信をしっかりやることが有権者へのアピールになる」と手応えを語る。市民活動が盛んな土地柄で、市民派の女性候補を押し上げようと市議選の選挙運動に参加。後に自ら出馬した。東日本大震災や原発事故を契機に発足した若い母親のネットワークにも支えられ、現在3期目。「他の議員も有権者との懇談会に熱心で、市民との距離が近い。男性議員からも生活者視線の質問や議会改革の声が上がる。こうした文化が女性の挑戦を促す面がある」と話す。

●草の根の動きも

草の根から政策課題を提案し、女性議員を生み出そうとする動きも始まっている。推進法案のアドバイザーだった三浦まり・上智大教授(政治学)らが「パリテ(男女同数)・キャンペーン」を始め、市民集会や街頭イベントを展開。7日には東京都千代田区で開いた「パリテ・カフェ」で、約60人の参加者が家事・育児や仕事の悩みを語り合い、政治課題として解決する方策を議論した。三浦教授は「皆さんのモヤモヤは、国会で女性議員が抱える問題と地続き。政治への要望を地元の候補者に届けよう」と呼びかけた。

社会貢献分野で働く女性たちの課題解決に取り組む、NPOサポートセンターの「N女プロジェクト」もパリテ・カフェ賛同団体だ。杉原志保代表(41)は「政治は本来、生活に身近なもの。議会への政策提言に向け、リーダーシップを取る女性を応援したい」と意気込む。パリテ・カフェに参加した派遣社員の渡辺照子さん(58)はシングルマザー。「政治家は、ひとり親が抱える家事・育児負担や派遣労働の現場の声に耳を傾けてほしい。『女性活躍』施策は何の救いにもなっていない」と発言した。選挙では「生活感覚を共有し、人々の困難を政治課題として捉えているかを注視して投票する」という。

「女性議員が増えるのは重要だが、風やブームでは真の女性活躍にはつながらない」。竹信三恵子・和光大教授(労働社会学)はクギを刺す。昨年の東京都知事選で「オッサン政治」を痛烈に批判して女性の支持を集めた小池百合子知事が当選して以降、市民団体「東京から男女平等を実現するネットワーク」メンバーとして都政をチェックしている。「女性の有権者自身で女性が活躍できる政策を設計し、それを実行する政治家の支持基盤となる運動をつくろう」と訴える。【中川聡子】=おわり

女性の政治参画に関する主要政党の公約
※丸カッコ内は今回の女性候補比率

自民 推進法案の早期成立と女性候補者育成(8%)

希望 国会の男女同数を目指し、必要な法案提出(20%)

公明 政治分野の女性参画拡大(9%)

共産 国会・地方議会の男女同数化を目指す(24%)

立憲 国政選挙へのクオータ制導入(24%)

維新 なし(8%)

社民 候補者の男女同等を目指すクオータ制検討(19%)

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