ドーマン法は障碍児の発達への効果を否定されている

ドーマン法についてこんなサイトがあった。この療法を子どもに課している親のボランテイア募集を荒川社協は区民に呼び掛けている。私もそれに応募してしまった。ドーマン法がここまで否定されているとは知らなかった私がいけなかったのか、知識のない区民をこれまでどおり誘導し続けるのか、検討してほしい。

エドワード・ルウィン:著 つくも幼児研究所:編訳 風媒社 定価:3000円+税(1983年3月)

    私のお薦め度:★☆☆☆☆

昔から、いろいろと物議を醸しているドーマン法についての本です。

その効果は疑問視され、治療(?)費用は莫大なものになるにも関わらず、今も民間療法として続いています。私も懐疑的ながらも、哲平の障害がわかったころ、一応その理論だけは聞いてみようと購入した本です。

ドーマン法の技法としては、、「パターニング」(おとなが数人がかりで幼児の手足首を毎日何時間も強制的に動かし続けて、体の動きを脳にパターンとして覚えさせようとする方法)や、「マスキング」(10分ごとにビニールのマスクで鼻と口を覆い、自分の呼気を繰り返し呼吸させることにより低酸素状態におちいらせ、肺機能を活性化させる方法)などが知られていますが、もしこれが効果のないものであれば、障害児に対する虐待になってしまうでしょうね。

もっとも、本書はその技法ではなく、その考え方の基礎となる、ドーマン・デラカート理論(本書では「神経構成理論」と訳しています)についての本です。
それによると、障害は脳神経が発達していく途中でなんらかの不全をおこして遮断や損傷を起こしているため起こるものであり、したがってその部位をつきとめ、上記のような「パターニング」や「マスキング」により強制的に脳に刺激を与え、次の段階に進めるというようなもののようです。

損傷が脳の内部に存在するならば、治療が成功するためには、その症状が現れる末梢部分にではなく、脳そのものに働きかけなければならない、というのが基本原則となる。
症状が非常にわかりにくいコミュニケーション障害として現れた場合であれ、明らかにそれとわかるナヒの場合であれ、いやしくも脳障害に対する成果を望むならば、この原則を破ってはならないのである。

そして、その働きかける部位を見つけるために考案されたというのが、「ドーマン・デラカート発達プロフィル」表なるものです。
それによると、横軸に移動運動・言語表現・操作能力(この3つが人間の基本機能だそうです)、視覚能力・聴覚能力・触覚能力の6つの枠をとり、縦軸に生後の年令枠をとり、それぞれの機能や能力がどこで止まっているのかを調べるそうです。

しかし、アメリカの小児科学会や神経学会などでは、この理論そのものが否定され、脳の発達段階に関する考え方も間違っていると指摘されています。

私は脳神経などに対しては素人ですので判断はできませんが、元々間違った理論のうえに構築された技法だとしたら、子どもたちにとっては虐待であり、悪影響を与えることになると思います。
そのうえに、多額の費用の支払いが求められるとしたら・・・我が家では、試してみようとは思いませんでした。

なお、このドーマン法の問題がまた日本で大きく取り上げられたのは、平成14年にNHKで放映された「奇跡の詩人」(日木流奈君のドキュメンタリー)でしょう。

いっしょに紹介されたFC(ファシリティーテッド・コミュニケーション)のコックリさんとも思える技法の信用性のなさと合わせて社会問題となりました。NHKは、放映後もあくまで批判は認めませんでしたが、国会でも取り上げられ、当時の厚生労働省の担当者が、米国の小児学会で効果を否定されていることを認めたうえで、

「専門家の間では、ドーマン法は脳に障害を持つ児童に対し一般的に用いられる手法ではないものと認識されていると私どもは承知している」 と答弁しました。

ただし当時のNHKの板谷専務理事の答弁にもあったように、いまも効果があると信じてドーマン法を行っている親御さんがいらっしゃいますので、その方々は読まれてもいい本だと思います。
しかしそれ以外の方には、・・・理論だけで実技をとりあげているわけではないため問題は少ないとはいえ・・・、あまりお薦めはできない一冊ですね。

      (2004.1)

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ドーマン法の基礎/E.ルウィン

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目次

  編訳者まえがき ・・・・・つくも幼児教室 施設長 阿部 秀雄

  はじめに

第1章 神経構成の概念

  生体における神経構成
  神経系の特徴
  神経構成の定義

第2章 神経構成の基本的要素

  遺伝的要素
  遺伝情報に及ぼす環境の影響
  環境的要素
  受精から誕生までの環境
  誕生時の遺伝的・環境的転換
  生後環境の機会と挑戦
  神経系に対する環境の影響
  行動的・神経生理学的研究の意義

第3章 神経構成の構造と機能の関係

  構造とは何か
  神経系の構造
  構造が機能に及ぼす影響
  機能が構造に及ぼす影響

第4章 現実能力と潜在能力

  潜在能力の予測可能性
  神経構成の尺度としての現実能力
  潜在能力の限界
  潜在能力開発への道

第5章 神経構成不全 - 現実能力と潜在能力のずれ

第6章 神経構成の評価 - ドーマン・デラカート発達プロフィルの理論的根拠

第7章 発達プロフィルの垂直スペクトル

  階層組織的な諸理論
  大脳皮質の階層組織
  神経構成における解剖と機能
  網様体と神経機能階層組織との関係
  神経階層組織の段階と水準
  大脳半球の優位性

第8章 プロフィルの横枠 - 3つの運動機能

  移動運動
  言語表現
  操作能力

第9章 プロフィルの横枠 - 3つの感覚機能

  視覚能力
  聴覚能力
  触覚能力(立体触知)

第10章 プロフィルの時間枠

  時間的側面から見たプロフィルの特徴
  発達測定上の諸問題
  行動測定学
  正常値の変容要因
  プロフィルにおける時間枠の根拠
  プロフィルの臨床的運用

第11章 神経構成と自律神経

  自律神経系の機能的構成
  自律神経系における神経構成の進行
  自律神経系の機能的役割
  自律機能における神経構成の臨床的意義
  自律異常における脳波
  自律異常と関連した神経構成不全
  神経構成における自律神経系の役割

第12章 要約と結論

  プロフィルの臨床的適用
  環境強化による神経構成の促進
  神経構成不全の治療上の諸問題
  神経構成理論に基づく治療の効果測定

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